ジャック・カーリー「百番目の男」

百番目の男 (文春文庫)

百番目の男 (文春文庫)

悪趣味な表紙で読む気がしないなあと思っていたのだが、どこかでバカミス大賞受賞と書いてあった(気がした)ので購入。刑事歴二年の男性が連続首無し殺人事件の捜査にまきこまれ、年上の同僚と捜査を進めるうちに、目立ちたがり屋の上司や人種差別主義者の妨害を受けたり、検死官の女性の重度のアルコール中毒からの回復に手を貸したり、検死局長の旦那のあやしい行動に出くわしたり、サイコな兄貴に助言を求めたりするはなし。


うん、これはいい。読み始めから、猟奇的で救いようが無く悪趣味な物語とは全くちがったテンションで突っ走る清々しいスピード感にすっかり心は気持ちよくなり、これのどこが「バカミス」なのか、これは単にとっても良くできた小説ではないかと思いながら、気がつくと読み終わっていた。とにかくこの絶望的までに救いようのない物語と、極めて軽やかながら落ち着きがあり、明らかに慎重に慎重に構築された語り口の落差がたまらない。確かに、物語自体はグロテスクな描写もあり、気持ち悪くもある。しかし、この読み終わった後のすがすがしさは何なのだろう。きっと、主人公が極度のアル中の友だちを必死に救おうとしたり、検死局長が自分の人生と向き直ろうとしたりするような、なにか優しい救済の物語が全編にちりばめられているからではないか。物語のテンポもとても良く、交わされる会話もなんだかしみじみしていてすばらしい。巷では「動機」の件が問題になっているようだが、僕には全然気にならなかった。そんなに変かなあ。このテンションからすれば無理はないし、そもそも面白いからいいじゃない?こんなに上質な作品は珍しいと思うのだが。