鳥飼否宇「激走 福岡国際マラソン 42.195キロの謎」



物語は福岡国際マラソンのスタートからゴールまでに展開される。このマラソンのレースの中で、主要な招待選手と一般参加選手、そしてその後方を走る「視覚障害者」レーサーたちに次々と焦点が当てられ、その一人称の語りのなかからそれぞれの物語とレースにかける思惑が浮かび上がる。

鳥飼否宇といえば、最近の「逆説探偵」や「痙攣的」など、まさに逆説と痙攣にみちたぶっちぎりの変態的探偵小説家としての地位を確固たるものとしている、現代の鬼才とも言える人物なのだが、今回はこのあまりにストレートで、むしろ20年くらい前のB級推理小説を思わせる、全くといって良いほど何のひねりもなく、鳥飼否宇を知らない人ならば間違っても手に取らないであろうと思われるタイトルに惹かれ迷わず手に取った。そしてびっくり。今回は本当にストレートで、痙攣的でも逆説的でも無いミステリー。でも、ミステリーと言うよりはむしろ「マラソン小説」に近い。マラソンランナーたちの思いや悲喜こもごもの思惑を、42.195キロのなかで実況するかのような体裁において一気に書き下ろした小説。確か20キロ地点かそこらで一人死ぬが、物語に対してはほとんど大した意味を持たず、むしろレース全体と物語全体に関係するある種の仕掛けをめぐって一人一人のランナーが疾走する。年の初めにふさわしい、切れの良い清々しい小説だった。