エドモンド・ハミルトン「反対進化」



いかにもB級なSF・ファンタジー小説作家の、SF短編集。人類が実は他の惑星からやってきた知性体のもっとも退化した姿であったことがあきらかになる表題作「反対進化」、マッドなサイエンティストたちによってアンタレス星に送り込まれた若者が王様として巨大蜘蛛軍団と戦う「アンタレス星のもとに」、生命活動を植物と同じくらいゆっくりとしたものとする秘術を使って植物の世界に入り込む「異境の大地」、火星の北極山地で金星人のお供とともに悪党から宝物を取り戻す「失われた火星の秘宝」など、珠玉の短編を10編収録。

これまたすばらしい。全編にみなぎるB級感覚、微妙な脱力感、しかし結構一生懸命書き込まれた描写の数々は、本を読む手を置く暇を与えず最後まで読み切らせてしまう。これがまあ、凄いんだ。だって、「アンタレス星」に送り込まれた主人公が手にした「電光剣」は、「なにしろ触れただけで、どんな生き物もあの世行きなのだ」とか、火星の極寒の地で凍えてふるえる金星人がフェルトの毛布を「原子力ヒーター」で焦がしてしまったりするのだから。しかしこの作家の大きな魅力は、このような馬鹿馬鹿しくも本気な記述のみではなく、その極めて巧みな物語の展開と構成にも感じられる。決して荒唐無稽なだけではなく、なにかとても美しくもあり虚無的でもある不思議な雰囲気が、力強く感じられる作品もいくつかあった。なかでも一番面白かったのは「異境の大地」で、この植物の世界の描き方は、ディックに弟子入りしたバラードのよう。とても単なるB級作家とは呼ぶことはできない。そんな意味で、なんとも不思議で面白い作家でした。解説に「これほど非科学的なSFも珍しいが、これほど気宇壮大なSFも珍しい」とか、「本編の科学的誤謬は致命的だが、それでも科学的な知見をバネに宇宙の成り立ちを解明しようとしたSF的/神話的想像力には敬服するほかない」などとあるのが面白かった。