エドモンド・ハミルトン「眠れる人の島」



キャプテン・フューチャーなどのいわゆる「スペースオペラ」と呼ばれる類のSF小説群で有名な著者の、「幻想小説」や「冒険小説」に分類されうる小説を集めた短編集。古代の蛇の女神が蘇りをはかるクトゥルーっぽい小説から、夢見たものが実現してしまう孤島に漂流してしまった男のはなし、北欧神話の世界に存在してしまうことになった記憶喪失の男のはなし、「邪眼」を持つとされる一家と対決するあやしい博士のはなし、不老不死になるとされる水を探しにどこかの奥地で大冒険を繰り広げてしまう冒険家のはなしを収録。

殊能大先生が「骨董品のようだがとても良い(大意)」と述べていたので読んでみたが、その通り。新しさや新鮮さはみじんも感じられないが、全編に漂うなんともいえない大時代的なまったりかんというか、予定調和の心地よさというか、とにかくSF水戸黄門的世界が大変に気持ちよい。でもそれだけでもなくて、物語の作り方もずいぶん丁寧というか不思議と面白く、どのはなしもそれなりにふーんという気分になれる。特に「眠れる人の島」はいわゆる「幻想小説」的なとりとめのなさに溢れているのだが、それでもなんだか物語に引き込まれ、結末はこの手の小説にユニークな後味の悪いものなのだが、それでもブラックユーモアのような笑えない冗談の感じられる雰囲気が楽しい。本当に馬鹿馬鹿しくて楽しかった。ちなみに、最後に収録されている「生命の湖」は奥地探検もののマッチョなファンタジーなのだが、笠井潔の「ヴァンパイヤー戦争」でこんな展開が延々と続いたのを思い出した。この「ヴァンパイヤー戦争」は全て古本屋に売ってしまったので、詳細は確認できないが、確かハミルトンようなマッチョで典型的な探検ものを書きたいと笠井潔は後書きで述べていた気がする。とすれば、そのパロディーから先に読み、そして今頃原典を読んだと言うことになる。なにか非常にマニアックな読み方だとも思うが、これはこれで面白い。