夢枕獏「陰陽師 龍笛ノ巻」



それいけ連続アップ第三弾。最近さすがにお金が無くて、そんなに単行本を購入できないのです。というわけで目を皿のようにして文庫本でめぼしいものを探していたら、以前良く読んでいた夢枕獏氏の陰陽師のまだ読んでいないと思われる巻が。これははずれはありえないので即購入。やはりとても楽しめた。

「むしめずる姫」を題材にとったはなしや、飢えに苦しむ様な処刑をされた人々の首の呪い、または桜の木の下に呪封されてしまった法師のはなしや、空をふわふわ漂う道士のはなしなど、相変わらず軽いのだが結構ちゃんと書かれている、文章の流れのとても良い短編が収められている。いつも思うのだが、夢枕獏という人は結構文章としては質が高い。のだけれども、ページあたりの文字数が少ないというか、物理的に密度が薄い気がする。だからなのかもしれないが、この文庫は税込み500円。いいのか、こんなに安くて。講談社のある種の文庫は、文庫の癖に1200円もするこの時代において、夢枕獏の文庫がこんなに安くて良いわけがない。まあ、それはぼくにとっては大歓迎なことなのだが。お話については、いつもどおり隙もなく良くできている。物語世界にただようある種の予定調和の中で、いつもいつもその図式を多少壊しながら、しかし不思議な安心感に包まれた物語が展開する。何ともけだるい雰囲気。とても上質。一時期は夢枕氏の小説はあまりに軽すぎるとも思ったものだが、個々まで行くと一流の芸である。とても素晴らしい。後書きで、他者から出版された自分の本を熱烈に宣伝しているところも素敵。