太田忠司「予告探偵 西郷家の謎」

発作的アップ第二弾。最近肩の凝らない推理小説でも読みたいのだが、どうにも新刊に元気がない。ちっともつまらない。と思っていたら、何となくジュブナイル作家だとおもっていた太田忠司氏が推理小説を書いているではないか。この人は、対象年齢が多少低めなだけあって、極めて文章が美しく物語の楽しみを大切にしていると思う。というわけで早速購入。

西郷家という郊外のお屋敷に、事件の予告が届く。それを届けた「探偵」は変わり者で、巻き込まれてしまった雑文書きがワトスン役を果たす。探偵が到着した直後に連続殺人事件がおこり、全てがおわってからゆったりと探偵は事件を解決してゆく。著者のことばがなかなか。「（前略）一癖も二癖もありそうな人々が集う中で起きる謎の殺人事件。挑むのは奇矯な言動で周囲を煙に巻く自称名探偵。（攻略）」これを読めば分かるように、この小説はある意味「探偵小説」のパロディーで、結局物語もそのように展開する。なわけで、物語自体には意外感もなく極めて伝統的。しかし、やっぱり著者のことばに表されているような、メタ推理小説とでもいおう雰囲気が、物語を全編にわたり弛緩させていて、なかなか気持ちが良い。言葉遣いも洗練されていて、楽しく瞬時に読み切ることができる。清く正しい娯楽小説。それ以下でも以上でも無い。どんな殺人事件で、どんなトリックだったかなど、すでに忘れてしまった。プロの作家としての仕事を堪能させてもらった気分。期待通りでとても楽しかった。