森達也「悪役レスラーは笑う ー「卑劣なジャップ」グレート東郷ー



最近本は読むのだが、いかんせんアップする時間が無い。今日はぽっかり時間が空いたので、最近の読書を続けてアップすることにする。これは第一弾。戦後すぐにアメリカで活躍し、その後日本でも力道山らとリングに登ったグレート東郷という人の生い立ちをめぐるルポルタージュアメリカでは強烈なヒールとして活躍し、日本ではプロモーターとしても力量を見せたが、力道山無き後に色々なトラブルとスキャンダルに巻き込まれ、日本を飛び出し帰っては来なかった。

このルポルタージュの大きな主題は、いったいこのグレート東郷なる人物は何国人であったのかという事である。森の思惑としては、グレート東郷の足跡とプロレスの歴史的流れを重ね合わせてたどることで、国籍というもの、ナショナリズムというもの、そしてメディアというもののあり方を批判的に見てみたいということがあったのだろう。しかし、残念ながらその意図はあまり生々しくは響いてこない。その原因は、一つにはもう無くなった方のルポルタージュであり、なかなか生々しいことばや映像が見えてこないと言うことがある。また、取材がやはりある程度失敗に終わり、あまりそもそもグレート東郷が何人であったのか、また結局どのような人間であったのかということが、よく分からないところにあるのではないか。日系人と思われる、アメリカでのヒール役にして日本での憎まれプロモーターという主役の位置づけがとても面白いだけに、話のふくらみの弱々しさが余計際だってしまった感がある。しかし、昔のプロレスラーの写真はとても雰囲気があって良い。この本で一番良かったところは、次々に挟み込まれる写真だったかもしれない。とにかく、写真が良い。そういえばこの本を読んだ直接のきっかけは日経新聞の書評で取り上げられていたのだが、そこには確か「岩波新書がプロレスの本を出すなんて」などという意味の分からないコメントが載っていた。それがどうしたというのだ。何か悪いところがあるならばそう書けばよいし、良いと思うのならば誉めれば良いではないか。こんな、どうとでもとれる、しかし基本的にはネガティブな意見を載せて、少ないスペースを埋めようと思う「評論家」という職業は、つくづく不思議なものだ。