松尾由美「いつもの道、違う角」



会社の同僚のちょっとした一言から、彼の異常な欲望がみえてしまいそうになるのかならないのかといったところの「琥珀のなかの虫」、麻疹にうなされる息子のことばにある事件の真相が語られそうになる「麻疹」、画家の秘めたる鬱屈を高校生の少女が見つめる「恐ろしい絵」、マンションの住人が自分の犬を殺した犯人を探すために開いた「厄介なティー・パーティー」、裏庭にのぞいた少女のような人影の正体を探るうちに誘拐犯を探り当ててしまう「裏庭には」、息子が忌むべき集団の集会に拉致されそうになってしまう「窪地公園で」、質屋でみつけたブローチが妄想をふくらませる「いつもの道、違う角」の、多少不気味で温度の低い、かといって生々しい描写があるわけでもなく不思議と落ち着いた雰囲気のある短編を集めたもの。あいかわらず文章はとても美しく、流れと切れがあり見事。極めて無理のある展開も、悪夢のような雰囲気ではなく白昼夢のような、ぼうんやりとしているとその異常さに気づきもしないのではないかと思ってしまうくらいの語り口の中で、淡々と進行しカタストロフを迎える。でも、僕の趣味とはちょっとあわなかった。このような不思議な、幻想小説とも呼べるような小説を良く読んだ時期もあったが、この微妙な味わいは僕には多少薄口すぎるのかもしれない。日影丈吉のような淡々とした美しさと異常さは面白いのだけれど、松尾氏の小説ではむしろもっとドラマティックな「スパイク」みたいな方が、好きだなあ。