草森紳一「随筆 本が崩れる」



マンションを本で埋め尽くしながら生活する筆者が、風呂場に入ったところで廊下の本が崩落、扉が開かなくなり閉じこめられながら、洗面所に積み上げてある本を黙々と読む表題作から、寝ている時に地震が起こり、布団の周囲に積み上げてくる本が崩れ落ちてくるのを片手でよけ続けることから少年時代の野球の回想を始めるはなし、また、最近の嫌煙の風潮に毒づきながら、政治家の悪相やビートたけしの逆の切れの無さや永井荷風のタバコの種類などをとりとめもなくつづったはなしの計三編の随筆を収録。

ああ、年末にもなってまたもや大当たりが。なんだか知らないあやしげな人の随筆だが、文章の切れ、力の抜けきった筆致、笑えない冗談の連続、ひねくれた表現、毒のある笑いなど、なんだか全てがつまっている。とにかくかっこよい。東北地方に行って写真を撮れば、観光センターのなまはげ二人が客が来なくて退屈なのか、ブランコにのっているところなぞを撮ってみて、自宅の話をさせれば本の堅牢なる積み上げ方を喜々として得々と語る。永井荷風の台詞を「あまりにも、なさけなさすぎて、嫌いではない」などと極めてネガティブに誉めてみれば、知人にプレゼントしようとした本を山の一番下から発掘したとたんに惜しくなって泣きそうになる。なんだかよく分からないが飄々としているが決して優雅でも何でもなく、老醜を感じさせるわけでは全くないのだが決して洗練されている雰囲気でもない。「本が崩れる」とあるが、貼付されている写真は崩れると言うよりは本を廊下に流し込んだような、そんな凶暴な状態である。これは、面白かった。ところで跋の池内紀はいったい何が言いたいのか。本文と何も関係がない上に、知識をひけらかすかのような文章は品が無く面白くもない。本書の著者との文章の格の差が感じられてしまい、図らずも面白かった。