リリー・フランキー「東京タワー」

リリー・フランキーの母親と別居する父親と小倉と筑豊と高校時代と武蔵美の生活と癌になった母親と相変わらずヤクザな父親とハワイ旅行と母の死と東京タワーのはなし。

とてもやさしくゆるやかで水っぽく、ひねくれながらもまっすぐで、明るく楽しくやけくそなんだけれどもいい加減な、つまりとても素敵な小説だった。リリー・フランキーの家族の話を幼少時代からつい最近に至るまでたどってゆくのだが、なんだか始めからしっとりとした雰囲気でちょっと不思議な感じが。基本的には現在から過去を振り返るためか、昔のエピソードはいちいち輝き、ノスタルジックな香りがするのだが、どう考えても内容は結構暗い。でも、なぜだか全てを肯定する素敵なオーラで語られる様々な物語は、暗いと言うよりもなにかぐっとくるパワーがあって、心にずけずけ入り込んでくる。最後まで読んで思うのは、これは亡くなった母のためにリリーが贈る鎮魂のことばのようなものだということ。でも、なんだか読んでて元気が出てくるのは、母のキャラクターの素敵さもあるが、リリーの醒めていながらも熱く、世の中に毒づきながらも決してネガティブにならない、力のこもったファーボールみたいなことばの勢いのためだと思う。しかしどう考えてもリリーがかっこ良すぎるのだが、リリーは本当にかっこよ良すぎるからこれでいいのか。あと、オカンも素敵だがオトンもかなり面白い。というかオトンが謎すぎる。一体何をしているひとなのか、気になるなあ。