山田正紀「蜃気楼・13の殺人」



色々うまくいかなくなって会社を辞め、田舎町で農業をしようと引っ越してきた父母息子祖父の四人家族が、村おこしのマラソン大会で13人のランナーが消え失せるという事件に巻き込まれる。この事件を皮切りに放火や殺人事件が相次いで起こり、最後には巨大トラクターが宙を舞う。

なんだか不思議な感じの推理小説。田舎にやってきた男の視点で書かれていたかと思うと、三人称の地の文でも物語は展開し、その地の文ではやたら田舎の人間の頑迷さをあげつらうかのような記述がなされるが、それがそうでもなくしたたかさとしなやかなねばり強さの表れであったということが物語のなかで明らかになって行く。はっきり言って、こういう視点の展開と柔らかいものの見方は爽快。事件自体は真相が明らかになるたびにがっかりというか、しょんぼりというか、つまりたいしたことは無いのだが、別にそれでも物語としては全然問題はない。だって、そもそもある事柄に一つの説明が成立すると言うことは、その説明が唯一のものであり正しいものであるということとは全く異なることなのだから。それによって原理的には事件は解決しないのである。そんなことより、次々と転換する視点、この爽快感、それが良い。特に元刑事の祖父の視点の語りが、味があって楽しい。ちょっとだけ登場する「風水林太郎」の意味は、よく分からなかったが。