伊坂幸太郎「チルドレン」



最近伊坂幸太郎氏の諸作を読み直すことが多い。ここ二つ、なんだかピンと来ない作品が立て続けに発表されたが、やっぱり面白いなあ。これは、独善的で論理性に乏しい家裁調査官をめぐる人々といくつかの事件を、時系列を揺るがしながらならべて最後にとん、と〆を打つお話。

面白い。一つ一つの話は軽くて教訓もなく、なんだかぼんやりとしている癖に不思議と心が軽くなる。そのなかに、なんだか思わせぶりな記述がちりばめられ、あ、これが最後にお話をまとめる大きな筋になるのかなあと思っていたら、そんなに大きな筋になることもなくやっぱり軽々しく終わって心地よい。ここには、ある信念に貫かれた願いや祈り、もしくは「信じれば願う」的な無根拠で無責任な主張は全くなく、強引なまでの筋道あわせとご都合主義的なつじつまあわせ、そして結局の所全てはそんなに大した話ではなく、気楽に楽しく、淡々と生きようよ、というかのような楽天性がみなぎっている。でも、これはとても素敵な感じだ。他人や世間の物事に対して「義憤」にかられたり「不条理感」を訴えたりする人に限って、人を踏みつけても何とも思わなかったり、気づきもしなかったりするもんね。それより、自分の世界を見つめ、他者の世界を見つめること、そしてそのなかでもしかしたら起きるかもしれない奇跡を、あまり期待することなくしかし忘れずに願い続けること、そんな静かな気持ちが大切な気がするし、ここにはそんな雰囲気が漂っている。