小路幸也「高く遠く空へ歌ううた」



感情を表すことのできない少年は、次々に自殺死体をみつけてしまうという不運な体質を持つ。その少年が草野球と冒険チーム「イレギュラーズ」の仲間たちと、自殺の理由をつきとめ、そして大好きな先生の自殺を止められないはなし。

まずなんといっても、「少年探偵団」みたいな雰囲気が楽しい。なにより章立てが素敵。「春先の十人目」、「赤目の魔犬」、「たまら湯」、「革ジャンの男」、「来客の日」、「虹の伝説」等々、目次だけでもぐっとくる。ところが物語自体は、どことなく冷たい鋭さがある。そもそも主人公の少年は片眼が義眼、その原因となった事故は友人のルーピーが起こしてしまう。水道トンネルを探検に行けば妖しい男がぬっとあらわれ、物語の主題となる自殺の謎もあんまりすっきり解決するわけではなく、その中心にいる人物や周りの人たちは、ある種の苦しみと共に舞台から退場する。でも、この冷たさがいいんだ。なにか、ものごとを一つの軸で捉えることをせず、表と裏を同時に捕まえて見せてくれるこの世界の中には、不思議と気分が軽くなるような救いがいつも感じられる。読み始めて最初に感じたのは、「空を見上げる古い歌を口ずさむ」では周りの人がのっぺらぼうに見えてしまう人の話だったが、今回は自分が「のっぺらぼう」になった人の話なんだということ。この「のっぺらぼう」な少年の語る淡々とした物語と、その最後にあらわれる強烈なカタルシスに、すっかりやられてしまった。人の呼ばれ方にこだわる姿勢もとても共感できる。名前や呼び方は「呼び方」ではなく、「呼ばれ方」なのだということに対して、非常に鋭い感覚が感じられて気持ちが良い。これで単行本は全て読んでしまった。次の新作が待ち遠しくもどかしいが、このようなもどかしさを感じられるということはとても幸せなことだとも思う。