平石貴樹「笑ってジグソー、殺してパズル」



ジグソー・パズルフリークな金持ち一家で連続殺人事件が起こり、死体の周囲にはジグソー・パズルがばらまかれていた。探偵小説マニアの主治医、おかしな英語を操る家政婦、東北弁の刑事、事件の形而上学的意味にこだわる大学教授、絶叫する運転手など、おかしな登場人物が現れ出でるなか、一切の動機を無視して犯行の可能性のみに着目した推理を更級ニッキが行う。

何を読もうかと考えるついでになんとなく手に取ったのだが、なんとなく読み切ってしまった。平石貴樹氏の文章は極めて無駄が無く、美しく、そして遊び心がある。この小説は僕が読んだ氏の小説の中では一番苦手なものなのだが、それでもやはり素晴らしい。何が苦手かというと、この小説で氏は「推理小説」を書こうと試みている雰囲気がある点である。確かに、ここでは犯罪の成立の可否が大きな問題となり、実に「推理小説」的な展開が見られる。でも、僕がやはり氏の小説に感じる良さは、その不思議と暖かい手触りであり、クールな描写であり、そしてやはり登場人物が読まれ、聴かれているのを意識しているかのような、なんとなく演劇的ともいえる雰囲気なのだ。この小説ではあまりにも「推理小説」然としているため、そのような魅力が多少舞台の後ろ側に後退している気もするが、それでも読み進むうちにやっぱり楽しくなってしまった。