山田正紀「超・博物誌」

プラズマを羽に受けて宇宙を飛ぶプラズマイマイ、異常に高密度な磁気を発生させるファントムーン、鉱石所の採掘跡に引かれたレールの上を超伝導を発生させて宇宙へ飛び立とうと疾走するカタパルトリッパーなど、なんだかよく分からない世界に存在する宇宙船的昆虫たちを、老境にさしかかった市井の昆虫学者が観察する話。

前述の山田風太郎的時代物にくらべ、山田正紀氏が描くSF小説はどこかメランコリックというか、洗練した雰囲気を漂わせようと頑張りすぎというか、なんとなく綺麗に描かれすぎている気がして、よしっ今回もはちゃめちゃだ、と感じさせてくれる魅力に欠ける気がする。そのため、読み始めは力が入らないというか、のめり込みにくいものを感じた。ところが読み進むうちにいつも通り設定は所々でほころびを見せ始め、同時に物語はどんどん力強さを増してゆく。物語は決まって老人がある不思議な昆虫を観察するところから始まるのだが、決まってその昆虫が回想を呼び覚まし、気づくと全然違う世界や生き物の話をしている。この、物語がどんどん横滑りしてゆくような感じが面白かった。老人が自分のことを油の抜けきった、望みも希望も無い人間と述べているが、文章的には極めて脂ぎっているというか、生き生きしているのも、山田正紀的で楽しい。