山田正紀「吉原螢珠天神」



江戸開闢の先駆けをつとめさせられた徳川の家臣が、深川にすみつくもののけと取っ組み合う「あやかし」、秀吉の朝鮮侵略の際にキムチの味を憶え、日本でもキムチもどきを作り続け変人扱いされる武士を描いた「辛うござる」、元御庭番が井伊直弼暗殺を命じられ、嫌々取り組むうちに徳川幕府が宇宙からの観測衛星に支えられていたという驚愕の事実が発覚する「吉原螢珠天神」の3編をおさめた中編集。

これまた、すごいなあ。。だってキムチですよ、キムチ!もう、なんだかよく分からないけど最高。よくまあ、こんなこと思いつき、しかもちゃんと物語としてまとめるもんだ。すごいすごい。実際の所、「辛うござる」は極めて淡々とした小説で、一番まともというか、普通の小説だった。「吉原螢珠天神」は、主人公の行動も投げやりなら物語の展開も投げやりで、登場人物のよく分からない必殺技などは山田風太郎的でもあり、結末はそれでよいのかと絶句したが、やはりそれでも良いような気がしてくる力業の作品。でも一番良かったのは「あやかし」。これまた普通の小説かと思っていたらいつの間にか主人公が河童の大群に取り囲まれてしまっていたりして大変だったが、なんとも言えない飄々とした、肩の力の抜けた文体はとても気持ちが良い。