伊坂幸太郎「重力ピエロ」



サラリーマンの主人公の周囲では放火と落書きが相次ぎ、主人公は落書きを消す仕事をしている弟の仕業ではないかと疑いを持つ。弟は主人公の母がレイプされて出来た子で、父親とは直接の血縁関係が無い。母はすでに無く、父親は癌で闘病中。その父は、放火と落書きの関係について、病床で生き生きと推理をめぐらす。そんなはなし。

知人に貸そうと思って探したら無い。そういえば、前の会社の先輩に貸したまま戻ってきてない。そう思ったら無性に読みたくなり、思わずまた購入してしまった。良い本は何度も買ってしまう。そういえば奥泉光の「葦と百合」は今までにもう4冊は買ったなあ。もとい、以前読んだときはこのスピード感と緊張感に圧倒され、とても感動したのを憶えている。最近の伊坂氏の作品を読んだ後で、もう一度読むとどのように感想が変化するかと思いながら読んだが、やっぱりとても面白かった。この人は本当に細かいセンテンスの感覚が鋭く、いつもいつも素敵な変化球を投げてくる。それがびしばし微妙なコースにきまり、ほんとうに気持ちが良い。一方で、二度目という事もありやっぱり初回よりはところどころで考えながら読んだ。この人の小説はやっぱり価値観が無いというか、教訓が無いところが良い気がする。当然モラルも無い。だから、時には非常に暴力的であり乱暴。でも、そこが楽しい。あんまり泣かせるような話ではなく、無機質でどこかぎこちなく、「良い話」ではなく「笑えない話」。それが、この人の持ち味だなあと強く感じた。出版当時に感じた、なにか目の前で物凄いことが起こりつつあるのを見ているかのような興奮はさすがにないが、この小説にはなにかどきどきするオーラみたいなものをやっぱり感じる。それはそういう所から発せられている気がしてならない。