松尾由美「ハートブレイク・レストラン」

駆け出しライターの女性が仕事場代わりに使うなんだか元気の無いファミリーレストランの片隅には、地主だった老女の幽霊が時々あらわれる指定席があり、ライターの女性の身辺に起こる様々な不思議な出来事を小耳に挟んだその老女の幽霊が、彼女にいろんなアドバイスを行う。

大好きな松尾由美氏の新刊なので全く中身を確認せずに買ってみたが、タイトルからは想像もつかない内容に驚いた。でも、相変わらずとても面白い。結構今回はまっすぐな物語で、探偵役が幽霊であること以外は普通のミステリー。起こる事件はあんまりおおごとでもなく、物語は穏やかな雰囲気の中で淡々と進む。色々な事件を物語の横糸とすれば、物語の縦糸となるのは主人公の女性とレストランをたびたび訪れる刑事の関係だが、むしろこっちの方がこの本の主たる物語なのでは無いか、と読み終わったときに思わせるのは、やはりこの作家の上手さ。しかし、相変わらず本当に小説がうまい作家だなあ。全編にわたりいわゆる「良い話」的な感じなのだが、ありがちないやらしさや過剰な演出は全く感じられない。とても静かで落ち着きがある。週末に読むには、ほんとに良い本。