ボブ・ラングレー「北壁の死闘」



第二次世界大戦末期を舞台として、トラウマティックな経験を持ち登山が恐怖になってしまったドイツ軍に従軍するクライマーが、ナチの思惑によって山岳部隊に引っこ抜かれ、嫌々核物理学者の誘拐に参加し、極度に登頂の難しい絶壁を二度にわたり登る羽目になる話。

山登り好きの先輩が絶賛するので読んでみた。確かに、山登りにかんする記述はマニアックに詳しく、おそらく正確なのだと思う。僕は高いところと寒いところが嫌いなのでクライミングには全くの興味と知識はないが、なにか正確に書かれた物事の持つ整合性と論理性が感じられ、それだけでとても楽しかった。高い山だとコーヒーがわかなくなるなどという、ストーリーの味付けと言うよりは豆知識的な記述も楽しい。一方で、物語の展開には首をひねらざるを得ない。まず、物語のクライマックスとなるアイガー北壁登攀にいたるエピソードだが、ぼくなら登らずに降伏するなあ。トラウマの解決を試みるならば、一人で登れば良いわけで。また、主人公とヒロインの女性との恋愛感情も理解に苦しむ。極限状態における感情の「異化作用」みたいなものかと思うが、主人公はその女性をほぼセクハラみたいな形で乱暴しているんだよ。不思議でたまらない。タイトルの和訳も疑問。直訳で「神々のトラバース」で良いのでは?専門用語かもしれないけど、分かる人が読めば一番楽しいと思うのだが。「北壁の死闘」って、物語のほんの一部分でしかないんだよなあ。なんだか安っぽく聞こえるのだが。