天野頌子「警視庁幽霊係」



幽霊が見えてしまう体質の刑事が、殺人事件の現場に居残っている幽霊たちに嫌々ながら事情聴取を行い事件を解決してゆく話。

いやいや幽霊が見えてしまう主人公、そのために胃を痛め刺激物を飲めない体質、警察以外には幽霊の存在が隠匿されている、幽霊対策専門の部署が警察内に設置されているなど、なんだかどこかで見たことのある設定が。これは単なる偶然だと思うが、物語の基本的な設定は大倉崇裕「丑三つ時から夜明けまで」にそっくり。でも読んでみると印象はずいぶん違い、こちらもとても面白い。大倉氏のほうはスプラッター色の強いトリッキーでパンキッシュな、むしろシュールな雰囲気の漂う小説だが、こちらは正統派というか、落ち着いた雰囲気でひねりもあまりなく、人情ものというかいわゆる「良い話」を指向しているためかとても読みやすい。でも、よくあるいやらしさはなく、物語もどこか明るくてノリがよい。別にこれといって誰が何かを推理するわけでもなく、幽霊の打ち明け話や錯乱や混乱を主人公が見聞きしてゆくだけなのだが、それがなぜだかとても楽しい。文章のリズムがよく、また登場人物たちがとても魅力的なことが、その大きな要因か。なにか一つ、現実には起こりえない設定を導入して、かつそれでも論理を組み立てて推理小説を構成するという技法は、西澤保彦氏の得意とするところというか、ほとんど名人芸の域を感じさせるものがあるが、この小説にもちょっとそれと近いものを感じた。別に幽霊が見えるから現実感がなく、小説としてつまらない、なんてことは全く無いんだよね。もっといえば、推理小説だろうがなんだろうが、現実感や論理性や整合性によって物語がつまらなくなったりすることは、おそらく無いのだろう。要は物語自体が面白ければ良い。これもそんな小説でした。