山田正紀「50億ドルの遺産」

作者お得意の東南アジアの某国での陰謀話。ベトナム戦争で遺棄された武器が隠されているという小国の島国で、うっかり足を踏み入れてしまった日本人と、その武器を狙う殺し屋がごつんごつん殴り合う。


しかし、よく考えるというか、イメージの豊かな人だなあ。話としては時代劇的予定調和に溢れ、何が起ころうとも安心して読むことが出来るのだが、それでもこの小説を普通とは違う、ある種異常な世界にしてしまっているのは、変質的に遺跡の復元を叫ぶ仏僧であったり、商売好きで陰謀好きな政治屋だったり、手品を使いながら人々を虐殺する殺し屋だったりと、登場人物がどれもこれも何らかの異常性を秘めながらもなんだか明るい不思議な性格をしているからか。この前読んだSF長編とは全く違う、暑苦しくて説明的、まるで作者が「俺が俺が」と叫ぶような文体なのだが、僕はこっちの方がずっと好き。なにかクールに、おしゃれに書かれてもどうせかっこよく無い。山田正紀の体臭が漂うような文章の方が、不思議と物語が力を持つというか、むしろ登場人物が浮き上がってくるような気がする。しかし、このとってつけたような悲劇的な結末はなんなのだ。こういうのがこの頃はやってたのかな。