大倉崇裕「丑三つ時から夜明けまで」

丑三つ時から夜明けまで

丑三つ時から夜明けまで

幽霊の存在と幽霊による犯罪が警察庁によって科学的に証明され、幽霊専門の捜査班がなぜか静岡県警に試験的に設置される。そこでおこる不可解な事件の数々に対する幽霊専門の捜査班捜査五課の活躍と、捜査五課と捜査一課との間の苛烈な対立を描く、異色の幽霊系推理小説

「七度狐」などの落語を題材にとった推理小説で一躍名をはせた大倉氏だが、僕はむしろその真骨頂は「ツール&ストール」や「無法地帯」などの、不条理すれすれのコミック系とも言うべきノリの良い作品群にあると思う。これもその手の作品に連なるもので、性格の破綻した捜査五課の警部補と、頑固で頑迷な捜査一課の警部補が、ことあるごとに対立しながら事件をどんどん混乱させ、挙げ句の果てに良く訳の分からない結末と解決をみるという話が何編か収録されている。でもとにかく、この人の文章はテンポと切れがよい。また、物語も幽霊の仕業かと思えばそうでもなく、しかし捜査一課の警部補が示すいわゆる「本格推理」的な解決もあっけなく否定され、ひねくれ具合がとても楽しい。それぞれの話の落ちも非常に洗練され、スピード感のある展開とあいまってとても気持ちの良い読後感が楽しめた。短編集だが、これ一冊でおそらく完結するであろう展開の潔さもとても素晴らしい。やっぱり大倉さんは面白いなあ。