平石貴樹「誰もがポオを愛していた」

だれもがポオを愛していた (創元推理文庫)

だれもがポオを愛していた (創元推理文庫)

他用でアメリカを訪問中の女性官僚更級ニッキがポオの「アッシャー家の崩壊」を思わせる事件に遭遇、その場に居合わせたナゲット警部をお供に事件を叩ききる。本書の体裁は、ナゲット警部がまとめた事件の記録を、ニッキの恩師の大学助教授が翻訳するというもの。この大学助教授とナゲット警部は知り合いで、ナゲットの記録にも登場する。つまり、地の文がすでに架空の人物によって「書かれた」ものというやたら凝った作りで、いい加減な訳注が頻発して楽しい。この素敵に知的な構成もさることながら、手記に登場する大学教授はやたらへたくそな言葉をしゃべり(もちろんそれを本人が翻訳しているという体裁)、登場人物の名前はナゲットやナビスコやブルシットなどととても記号的、挙げ句の果てにロンとヤスという中年男性警官の二人はゲイのカップルというとても楽しい物語。こーんな楽しい推理小説、ほかにはあまり思いつかない。