川渕孝一「日本の医療が危ない」

日本の医療が危ない

日本の医療が危ない

日本の医療制度について、基本的には批判をしつつ、では医療保険のカスタマー(つまり「国民」全員)がどのように行動すべきかと言うことを書いた本。独自の手法による統計がちらほらと見えるところが新しいらしい。

途中まで読んでどうでもよくなりほっといたのだが、先日の日経新聞でかなり好意的に取り上げられていたので、もしかしたらとても大事な何かを見逃したかと思い読み直してみた。しかし、やっぱり首をひねらざるを得ない記述が多い。この本全体に対して感じられる最も大きな問題は、まず論旨がはっきりしないということ。例えば、「「結果の平等に」絶望的!」と題された章では、「一定のデータを示しながら「結果の不平等」の実態を見」ていくとされるのだが、その直後に続く議論は国立大学病院のコストの高さとその医療技術に関するもの。読んでゆくと国立大学病院が「重症患者がとりわけ多いわけではない」ということは確かに示されるのだが。そのうち「東大の医療水準は最高水準か?」などといったいなにが冒頭の問題提起と関係があるのかと思わざるを得ない議論が始まり、しかもその議論に切れがない。全編にわたってこんな感じなので、とてもまじめに読むことが出来ない。「「よい医療」はこうやって実現できる」と題された部分でも、何をすべきかというとまず「病気にならない」、「IT技術を活用する」、「市販薬を効率よく使う」など、めまいがしそうな事ばかり。本当にまじめに書いているのだろうか。なかには、「現制度には医療技術を押し上げるインセンティブがない」など、当たり前だがまっとうな意見も見られるが、では制度設計をどのようにすべきか、医療費をどのように負担すべきかという議論がない。アメリカとの粗雑な比較もよく見られるが、アメリカの医療制度の崩壊具合を知っているのか。経済の人だから、というわけでは無いだろうが、現場に近いところにいる割には現場のセンスが感じられない。元気が良くて、物事を言い切る口調には、多少の好感が持てはするのだが。