姜尚中「反ナショナリズム」

反ナショナリズム (講談社プラスアルファ文庫)

反ナショナリズム (講談社プラスアルファ文庫)

1997年から2003年に書けて、姜尚中が様々な媒体でつづったナショナリズムに対する警告を集めたもの。「戦争と歴史」、「ナショナリズムの現在」、「ナショナリズムと知識人」、「言語とナショナリズム」、そして「「日本」というナショナリズム」の全5章からなる。

小林よしのりの「戦争論」を論じたものから丸山眞男大塚久雄という二人の思想家を論じたものまで、内容が多岐にわたるとともにその口調も様々な口調をとり、ある場所ではとてもわかりやすくある場所ではなかなか議論を追って行くのに苦労する。全体的にはやはり姜尚中らしく、苦悩と呻吟から紡ぎ出される言葉は決してわかりやすいとは言えない。しかし、7〜8年前の彼の言葉からすれば、なんと率直でまっすぐなことばになったものか。それだけ、彼が言葉を遠くに届けなければならないと危機感をおぼえているということか。議論としてなんとなく理解できたのは、公と私の二項対立が、えてして「わがままで勝手な」私と、公益のための国家という図式に短絡されてしまい、それが小林の「戦争論」の基本的な議論である、かつ、実際のところ公共的な空間とは決して国家に短絡されることもないし、むしろ様々な私がそれぞれの立場でせめぎ合うことが、豊かな公共空間をつくるはずだというところ。しかし、この議論自体はもう様々なところで読んできたものなのでそれほど胸躍るわけでもない。むしろ圧巻は、網野善彦金時鐘という二人の学者との対談である。網野の対談では、歴史家という立場から「日本」のナショナリズムを突き崩してゆく網野の勢いに圧倒され、ただただびっくりしたのだが、それにもまして金との対談はすさまじい。その切実なことばを誰かに伝えるというのはとても出来ることではないが、人間の関係が友か敵かというおぞましい関係であることを終わらせなければならないという二人の言葉は、忘れたくないので書き留めておく。