塩野七生「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ 上・中・下」

ローマ人の物語 (14) パクス・ロマーナ(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (14) パクス・ロマーナ(上) (新潮文庫)

カエサル暗殺後、第二代目の皇帝となったアウグストゥスの治世をまとめたもの。

ローマの平和時代、いわゆるパクス・ノマーナの時代。なだけに、あまり盛り上がり無く読み物としては単調。塩野も、このアウグストゥスという人物にはあまり共感を抱いていないようで、突き放したような記述が多い。記述の量的には比べものにならないくらい少ないが、むしろアグリッパの描写の仕方の方が痛快。一方で、その政治力については後世の評価を無視できないためか、アウグストゥスを持ち上げるような記述も多い。なんだか、誉めているのかけなしているのか、よく分からない。おそらく塩野が書きたいように性格を設定できるような人物では無いのだろう。当然。カエサルと違い、本人による叙述録が貧弱だという理由もあるだろうが。意外と時間がかかってしまい、現在は次の「悪名高き皇帝たち」の二冊目を読んでいるが、愚帝カリグラはやはり面白い。さて、これからどうやって殺されるのか。

(追記)読み返していて思い出したのだが、ローマ帝政というものが、形式上であれ元老院の推挙によって成立するものだったという記述には驚いた。慣用語法的にはこれは「皇帝」では無い。塩野も、「皇帝」という名詞をあまり正確に定義することなしに使用している。そのローマ帝政の現状を見ても、皇帝制の語感から推測される権力と利権の一極集中とその血縁的移譲関係ではなく、むしろ権力の行使に伴う責任とその制度設計の投げ合い、という感が強い。特に、アウガストゥスに関してはその成立からして曖昧で、その権力の移譲形式も不思議。とても面白い。