東川篤哉「交換殺人には向かない夜」

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

浮気現場を自宅である山奥の洋館で押さえるように要請された探偵とその大家が、運転手と家政婦になりすまして潜入するが、同時に探偵の助手とその友だちは近くの山小屋でそのまた友人と一晩過ごす。街では刺殺死体が見つかり、洋館では目標の旦那が不穏な動きを示し、山小屋では二流のホラー映画の上映会が始まる。

こんな感じで非常に分裂症的でとりとめもない物語だが、驚いたことにこれがかなりの傑作。この作者には、一番始めの作品でそのあまりのくだらなさに度肝を抜かれ、結構本気で感動したのだが、それから一作ごとにパワーが落ち始め、前作では初めてある一定の水準を割り込んでしまった感があったが、本作で見事復活。極めてくだらなく狂騒的で無意味な文章はなにかとても力強く、復活の雄叫びのように感じられる。会話文は相変わらず無駄に冗長で意味が無いが、今回は極めてテンポが良いためにその無意味さがかなり心地よい。また、そんなとこにこんなものを間違っても置くか!と叫びたくなるようなありえない設定も、このくだらない会話に埋没して恐ろしいことにそんなに違和感を感じない。また、今回は物語としての構成も素晴らしく、こんな間抜けな物語を書きながらこんなに鋭く考えていたんだー、と真剣に驚いた。話としては無茶苦茶なんだけどね。でもとても丁寧に書かれている。