石川順「諸国畸人伝」

諸国畸人伝 (中公文庫)

諸国畸人伝 (中公文庫)

大正以前の人形師や左官屋、絵師や文筆家、加えて坂口安吾の父である阪口五峰などの生き様を、文献資料と伝え聞き、そして自ら現地を訪れて見聞きした内容で描いたもの。

石川順といえば、「マルスの歌」で痛烈に戦争を批判し軍部ににらまれ、神話的世界と中世の支配体系のせめぎわを描いた「紫苑物語」や、敗戦直後の焼け跡のなかにあらわれ出でた一眸の光を描いた「焼け跡のイエス」など、石を投げれば傑作にあたる、日本の近代から戦後にかけての大文章家である。中公文庫では本作が1976年に出版されていたのだが未読、最近復刊され改版されたので、これはもう読むしかない。とおもったのだが、これはつまらなかった。石川順にもこんな駄作があるなんて。これはびっくり。おそらく、あんまりまじめにかいたものでは無いね。同人誌的に発表されているし、かつ内容はおそらく誰かが資金を援助して、遊び歩きながら書いたものだと思われる。文章には切れが無く、冗長で美しくない。書や画の批評もぐっとこない。そもそもなぜこのような人々の遍歴を描こうかと思ったのかがよく分からない。中公文庫で読める石川順はこれ一冊なのだが、なぜこれなのか、全く不明。石川順を読むならば、講談社の文庫か、筑摩の作者別の文庫の全集がお勧めです。