小路幸也「空を見上げる古い歌を口ずさむ」

空を見上げる古い歌を口ずさむ (Pulp‐town fiction)

空を見上げる古い歌を口ずさむ (Pulp‐town fiction)

ある日突然息子の様子がおかしい。みんなの顔が「のっぺらぼう」に見えるという。主人公はすかさず20年ほど会っていない兄に電話をかける。身の回りで「のっぺらぼうがみえる」と言い出した人がいたら連絡しろといわれていたから。兄は間髪を入れずやってきて、自分のこども時代の話を息子に始める。みんなが「のっぺらぼう」にみえはじめてから、何が起こり、何が失われ、そして世界がどのように変わったのか。

こどもに話しかける口調で描かれた、少年期の冒険物語。しかし、他人がのっぺらぼうに見えてしまう主人公の視点が、世界を微妙にゆがませる。物語は、製紙工場と思われる工場の街で起きた、こどもの失踪事件と大人たちの不可解な死亡事故に導かれ、主人公を異世界へと連れて行ってしまう。この作家は最近最も素敵だと思うのだが、最新作がいまいちであったので一番始めに描かれたものを読んだ。物語は、ある種のヒーローものというか、選ばれた少年のはなしで少し甘め。でも、このノスタルジックな雰囲気とぼんやりとした優しい語り口は、とても気持ちがよい。ざくっとえぐるように素敵な物語ではないが、軽すぎもせず、いい感じ。表紙の絵も良いが、タイトルのロゴはもっと素敵。タイトルもかっこよいよね。