山田正紀「ミステリ・オペラ 宿命城殺人事件」
ミステリ・オペラ―宿命城殺人事件 (ハヤカワ・ミステリワールド)
- 作者: 山田正紀
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/04
- メディア: 単行本
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僕が山田正紀を初めて知った本。文庫で再版されたため、久しぶりに読んだが、やはりこれは傑作。物語自体は破綻している。様々な不可思議な事件に与えられる解決は、ほとんどレトリックの世界でしか成立せず、推理小説としては成立していない。また、様々に仕掛けられた伏線は次々と爆発してゆくが、あまりにも思わせぶりなため良く意味が分からない。しかししかし、これは面白い。説明は難しいのだが、一つにはモーツアルトの魔笛の不可思議なストーリーが、物語の中で非常に効果的に使われ、力強く背骨のように作用していることがある。また、「真実」と事実に向き合う登場人物の姿勢は、強者によって語られる「真実」と虐げられたものによって実感される事実の落差を、物語の至る所で感じさせる。ここでは「ミステリー」が脱構築されるだけではなく、「歴史解釈」や「真実」の意味が脱構築され、またそれを単に相対主義の海に放り込んでしまうのではなく、蛮勇をふるって一つの祈りにも似た「物語」に回収してゆこうとする、山田正紀の奮闘が立ち現れている。文庫で上下巻二冊組、文章は流麗だが語り口には非常にくせがあり、物語自体も何とも説明がしがたいような破格のもので、誰にでもお勧めできるとは言い難い。小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」や中井英夫の「虚無への供物」を好んで読むような物好きにしか、面白くはないかもしれない。しかし、これは間違いなく、最近の小説の中では、その異様な極端さと言う意味で、突出した出来である。