小泉武夫「酒肴奇譚 語部醸児之酒肴譚」

酒と肴にまつわる10編の話を、講談調で語ったもの。

日経新聞にも連載している東京農大の教授が、延々と酒と肴の楽しみを語る。さすが醸造学の大家だけあり、知識的な情報が豊富で正確。テキーラの作り方なんて初めて知ったよ。また、麹の専売制が如何にして崩れていったかなど、決して今後役に立つことは無いだろうと思われる知識が満載されていて、なかなか楽しい。ただ、自ら体験したと思われることどもについての記述は詳細で明快なのだが、伝聞調のことと多少大げさに過ぎ、食傷気味の気分がする。また、この人は饒舌で大げさな表現がなかなか良いなあと新聞連載を読みながら思っていたのだが、これは連載だから良いのであって、一度にまとめて読むと多少胸焼けがする。あと、一つ大きく気になったのが、やたらに「日本」の食文化を礼賛するところである。なぜか、食べ物の話になるとナショナリストが多くなるのだが、この人にも多分にその傾向がある。別に「日本人」の魚の食べ方が世界に比して稀だからと言って、それがなんなのだ。それに、ビールは生魚にも合うと思うよ。