小路幸也「ホームタウン」

ホームタウン

ホームタウン

顧客や内部社員の調査係として百貨店で働く青年は、妹と共に両親が殺し合う姿を目撃したというトラウマティックな経験を持つ。その離れて住む妹から結婚の知らせが届くが、結婚式の直前になって婚約者と妹が失踪してしまう。二人を探す内に、暴力団関係のトラブルなどが浮き上がりつつ、最終的には事態は丸く収まってゆく。

小路幸也氏は、前作では極めて異常でトラウマティックな記憶を持つ三人の男女が、異常な行動を淡々と起こそうとする話を描き、強烈な印象を持った。この人は舞台の設定にちょっとついて行けないと思うくらいの異常さを背負わせる一方で、物語自体はなにか非常に暖かみのある進行をさせ、極めてラディカルな物語を作ってゆく人で、今最も新作を楽しみにしている作家の一人である。本作は、その期待からすれば、面白かったのだがちょっと残念ではあった。舞台そのものは相変わらず以上でいい雰囲気なのだが、物語自体はあれっと思ってしまうくらい普通にいい感じに進行してしまう。ある種、幸福なご都合主義が貫かれ、面白くない。最終的な物語の収まりも古典的な大円団で、深みがない。少し筋違いをしたような、なにか結局のところ上手く収まっていない違和感のようなものが残る。カタルシスがないというか、痛々しさがないというか。ずしんと残るものが、ないんだ。表紙の写真は素晴らしいし、普通に面白いのだけれども。