S. J. ローザン「春を待つ谷間で」

春を待つ谷間で (創元推理文庫)

春を待つ谷間で (創元推理文庫)

中国系アメリカ人の女性と、ピアノを弾くアメリカ人の男性の二人の私立探偵の話。どちらも独立して営業する探偵なのだがチームを組んで仕事をするときもあるという設定で、チームを組んで仕事をしたときの話をシリーズ化したもの。一作ごとに一人称の主体が入れ替わり、6作目の本作では男性であるビル・スミスの視点で物語が描かれる。都会の喧噪から離れるために田舎町に逃避したスミスが、そこで盗難事件と殺人事件に出くわし、最後は異常な銃撃戦に巻き込まれる話。

朝倉めぐみ氏が表紙を描いているせいか、このシリーズはとても面白い。話はいつも絶望的なカタストロフを迎えるが、嫌みもなく、落ち着いていて雰囲気が良い。読みやすい文章なので1,2作目以降は原書で読んでいたのだが、とても面白い。しかし、本書だけは最初の10数ページで挫折してしまった。日本語訳が出たので読んでみたら、理由が何となく分かった。やっぱり面白くないのだ。話は陰鬱としてとりとめが無く、人間関係のつながりも恣意的にすぎる。おそらくストーリーより雰囲気を重視したためか、いかにも「ハードボイルド」な感じがうるさい。主人公は泥酔しながら車を運転し、ひっきりなしにタバコを吸い続ける。なんだかんだよくわからず、結末もぐずぐずと終わる。いい加減、タバコとお酒で主人公の性格付けをするのはやめてもらいたいものだ。読んでいて胸焼けがする。