奥田英朗「ウランバーナの森」

ウランバーナの森 (講談社文庫)

ウランバーナの森 (講談社文庫)

隠遁生活を暮らすイギリス人のポップスターが、日本人の妻と息子と共に夏の軽井沢を安らかに暮らそうとするのだが、尋常ではない便秘に襲われると同時に青年時代の悪夢のような日々がフラッシュバックし、通院する羽目に。その病院のドクターはなにか不思議な人物で、しかも病院からの帰り道には、死人とおぼしき人々に出会い始める。季節は折しも盆で、お手伝いのおばさんは次々と死者との交信の準備を始める。

あー、これはいい。いいねー。うー、面白い。まだこんな素敵な本を読んでいなかったとは。ジョン・レノンとおぼしき主人公のライフヒストリーを始め、便秘の悩みとパニック症候群、トラウマにフロイトもどきの心療内科のドクター、ギリシャ神話に仏陀のエピソードまで、極めて色とりどりの要素がなんとも自由に結びつけられ、物語は展開する。語り口も力は抜けているのだけれど冗長になることもなく、確かな緊張感が最後まで持続する。特に素晴らしいのは、あくまで即物的なドクターと情緒的な主人公が、一つの経験を共有しながら全く異なるそれぞれの現実を認めてゆくところで、これはとても爽快だった。これは、このある種の和解と救いの物語を貫く態度でもある。死者たちと次々和解してゆく主人公は、しかし決して現実を自分の視点で再編してゆくのではなく、そこに他者がいるということを認め、それによって自分を再解釈してゆく。そんな感じのはなしで、とても面白かった。しかし、最近pioに好みを完全にスキャニングされてる気がするなあ。