矢口敦子「家族の行方」

家族の行方どうも最近、昔読んだ本をもう一度読むことが多い。それは文庫落ちしたり作品集が新たに編集され、つい手に取ってしまうからなのだが、以前の自分が物凄く面白いと思った本が意外とそれほどにも感じない場合があり、妙に面白い。

この本も最初に読んだときには相当驚いた記憶がある。大学生の息子を持つシングルマザーの作家が、霊能者と間違えられ人捜しを頼み込まれる。失踪したのは大学生受験生の男性で、両親は離婚し父親と同居しているのだが、父親は子どもに気を配らず失踪したこともちゃんと認識していない。失踪に気づいた母親が依頼人なのだが、彼女もちょっとおかしい。その男性の行方を息子と探す内に、二つの死体とフロッピーディスクがあらわれ、そのフロッピーディスクには失踪した男性の手記が書かれている。この手記の内容と二つの死体が大きな物語の軸となるのだが、面白いことに話は推理小説的には転換せず、主人公の母親と息子との間の苛烈な葛藤が明らかになって行く。


再読しても結構楽しめたが、文章がやや軽すぎ、密度が足りない感じがした。また、登場人物が多少美少年趣味的なところも鼻につく。しかし、この作品の一番の良さは、母親から見た息子の姿があまりにもリアルというか、実感が込められているところだと、相変わらず感じた。息子は宇宙人のようで何を考えているのか分からず、ああいえばこういうし、気分によって態度がころころと変化する。何でか分からないのだが、非常に理解しやすいんだよなあ。