山田正紀「未来獣ヴァイブ」

東京をぶちこわした怪獣がシベリアに飛んでゆく話。

いや、もうちょっとちゃんとストーリーをまとめておきたいのだけれど、出来ないのですよ。全部で692ページ、発表時には4冊だったお話を一つにまとめた物なのだが、素敵に物語は錯乱している。どうやら書いていてまとまりがつかなくなってしまったみたいで、後書きで作者自ら怪獣がシベリアに飛んでいってしまったときは、自分自身どうしてこんなことになったのか理解に苦しんだとある。僕も理解に苦しんだ。


未完のまま20年経ち、最近とり・みき氏に再評価されたのを機にまとめなおしたらしいのだが、全然まとまっていない。主人公の少年が色々なことがあって怪獣と精神的なつながりを持ち、その少年に対し時間を超えて憎しみを持つもう一人の少年が闘いながら、怪獣が日本を破壊してゆくという、やっぱり説明ができないストーリーである。いろいろな伏線は仕掛けられているのだがことごとく不発におわり、主要と思われた登場人物でさえ作者に忘れられ、物語終盤でとってつけたようになんとなく活躍する。うーん、面白い。あんまり山田正紀氏に感じたことはないが、これはフィリップ・K・ディックの世界だよ。物語がシュールなのではなくて、こんな物語を書いてしまう山田正紀氏がシュール。久しぶりに堅い本を読んだ後にはちょうどよい。