鳥飼否宇「非在」

非在 (角川文庫)

非在 (角川文庫)

奄美の浜辺に流れ着いたフロッピーディスクには、近海の孤島と思われる場所での遭難と惨劇の記録がつづられていた。生存者を捜すために捜索隊が派遣されるが、そもそもどこの島なのか特定することが出来ない。そのような状況下で、フロッピーの拾い主である写真家とその仲間達が島の場所とそこで起きた事の顛末を解明する話。


書店で本を眺めていてもピンとくるものが無いので、以前読んだ本が文庫になっていたので購入する。作者は我らが変態作家鳥飼否宇氏だが、記憶ではこの頃は結構端正に、王道の推理小説を書いていたはずだった。しかしあらためて読んでみると、この人やはり変な人だなあ。どこが変とは言いにくいんだけど、物語の構成自体が妙に不思議で、一筋縄ではいかない。フロッピーに納められた手記といえば、書き手の交代や叙述自体の信憑性を軸とした物語に展開することが多く、つまり面白くない物が多いのだが、これはその辺がもう明らかなところから始まり、結局交換されるのは生きた人間と死んだ人間という不思議な展開を見せる。結局のところ面白かったのだが、このころの鳥飼氏は妙に「ちゃんとした」小説を書こうとしているかのような固さが感じられることも確か。最近の脱構築されきった筆致の方が素敵だと思うし、そのように作風が展開してゆくということはなかなか出来ることではない。