山田正紀「闇の太守 御贄衆の巻」

戦国武将朝倉義景の長女でありながら、不吉な予言のためにその配下の子どもとして育てられた疾風が、なぜか得体の知れない集団からの助力を得ながら、朝倉家を乗っ取ろうと画策する明智光秀の策略に反抗を試みる。


冗談みたいな小説で、つまり山田正紀山田風太郎を意識して書いた時代伝奇小説。山田風太郎張りのめちゃくちゃな特技を持つ者どもが、敵味方に分かれ合いつつ、疾風という一人の女性の周囲をぐるぐる旋回する。物語ははちゃめちゃ、なんとなくヨーロッパの中世的な雰囲気が漂うのはいったいなぜなのか。なにか狂騒的で祝祭的な物語の進行が、時代劇と言うよりは中世を舞台にしたオペラ的な雰囲気を思い起こさせるからかもしれない。ところで僕は山田風太郎のいかがわしくてエロティックでどうしようもない下品な物語が大好きなので、もちろんこのお話も楽しめた。でも、やっぱり山田正紀だなあと感じたのは、登場人物の特技が自分の体から「屍臭」を漂わせることだったり、死体に群がる虫たちを呼び寄せることだったり、自分の顔を「死に顔」にして相手の気勢をそぐことだったりするところで、しかもこれが全員味方のキャラクターなのである。このちゃんとひねくれたところは、どんな物を読んでもほとんど裏切られない山田正紀の良いところです。表紙、挿絵は天野喜孝さん。けっこうまじめに描いてて、良い感じ。昭和62年に刊行されているから、もう18年前か。