伊坂幸太郎「ラッシュライフ」

ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)

ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)

リストラにあった中年サラリーマンや自宅に空き巣に入られる泥棒や画商を首になった従業員や愛人の奥さんを殺そうともくろむカウンセラーや親父が飛び降りて死んだ青年や駅前で好きな日本語を書いてもらっている留学生や金が命の画商達が繰り広げる群像劇。


最初読んだときは背筋が凍りました。読み終わったときにはカタルシスが洪水のように押し寄せてきた。で、もう一度読んでみたら、やっぱり最初ほどの感動はない。むしろ、色々と気になる点が目につき始め、しかもそれが作者の基本的に倫理観や物語を作る姿勢のようなところだったりするから、結構複雑な気分がした。でも、それでもとても面白かった。おそらく非常に物語を構築してから実際の文章を書く人なのではないかと思うが、良くも悪くもその計算し尽くされた物語の構成は、だからといって白けてしまうことは全くなく、物づくりの方法論としてとても素晴らしいと思う。それが単に計算されているわけではなく、その計算は時に無茶苦茶で、訳が分からないところが良いのだと思う。技術的には、色々なことが起きる時間が物語の中のいろいろな部分にばらまかれているのが良いのだろうな。とても時間をかけて作り込まれていることがひしひしと伝わってくる。善し悪しは別にして、その物づくりの姿勢はとても共感できます。