ドナ・アンドリューズ「恋するA・I探偵」

恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

不気味なタイトルだが、原題は"You've got murder." 例のあの映画のパロディーです。近未来において感情を持つようになったA・Iが失踪してしまった自身の開発者の行方を探る内に様々な事件に巻き込まれ、同時に自意識と存在の本質に関わる内省的な考察を繰り返す。


物語は普通。多少無理矢理な筋立てで、強引なところもありつつ何となく納得できる。腕が良い作家だ。面白いのは、この作者は、コンピュータ内に存在する人工知能を主人公として、その人工知能が感情を持ち自意識を持つようになる過程とミステリーを混ぜ込んだ明るく楽しいエンターテイメントを書こうとしているように見受けられるのだが、実際にはなにか非常に哲学的な雰囲気が漂ってしまっているところである。延々自分とは何か、自分が自分であるということとは何かという問いが投げかけられ、物語とはあまり関係ないなと思いつつ楽しく読めた。また、作中で人工知能が移動可能な端末に自分をダウンロードするのだが、この辺の記述は臨死体験のようだ。実際読んでいて、死と生を主人公が直接体験する様子が生々しく描写され、ちょっと気持ちが悪くなったくらいである。因みにカバーイラストは両口美加という方が描かれていて、とても良い。いかにもイラレっぽいマットな絵柄だけど、色遣いやアクセントの付け方が上手でつい手に取ってしまった。この人どこかでも見たことあるんだよな。松尾由美さんの小説でも表紙を書いていたような。。よく憶えていないけど。でもカバーイラストはとても良いのにタイトルのフォントや配置はとても寒々しい。カバーデザインはハヤカワ・デザインさんですか。なんかもったいないなあ。