鳥飼否宇「逆説探偵 13人の申し分なき重罪人」

逆説探偵―13人の申し分なき重罪人

逆説探偵―13人の申し分なき重罪人

体育会系の刑事五龍神田は次々と奇怪な事件に直面するのだが、知り合いのホームレスたっちゃんとその知り合いの十徳治郎が常に導きの糸を指し示し、真相に直接至るのではないがある種の解決を迎えることが出来る。そのうち十徳治郎は姿を消し、代わりに怪しげな探偵がうろつき始めるのだが、相変わらず奇怪な事件は続き、五龍神田はなぜか事件の真相を指摘するようになる。


昆虫の生態に基づいた探偵小説「昆虫探偵」の作者である鳥飼否宇氏の最新作。理学部生物学科を卒業しながら出版社につとめ、現在は奄美大島で自然観察の傍ら小説を執筆しているというマニアックな経歴が指し示すとおり、この人の小説はいつも冗談のようにマニアックで訳がわからない。しかし、これもいつものことではあるが、副題の切れの良さに示されるとおり、この人の小説は本当に切れがよく、しかもえもいわれぬ不気味な深みがあって読み応えがある。本作は推理小説としては別にどうというほどのものではないが、作中世界に漂う異常な雰囲気と硬質な文章が、理屈を超えて展開される世界に見事に引き込んでゆく。思えば「昆虫探偵」の頃からこの作家は「ミステリ」というジャンルを脱構築することに、異常な熱意を持っていたわけで、前作の「痙攣的」ほどではないが、本作にも物語自体を脱構築し、むしろ新しい何かを見つけていこうとする熱意が感じられて気持ちがよい。でもまあ、この手のものに共通する据わりの悪さというか、空回りする悪意のようなものはやっぱり感じられるのだが。それでもいわゆるポストモダンと自称する作家達のような、全てを無責任に放り出し作者が一人悦にいるというようなグロテスクさは感じられなく、好感が持てる。