ドン・ウィンズロウ「ウォータースライドをのぼれ」

元ホームレス少年で現銀行の非合法的調査部門の調査員のニールが、テレビ会社の経営者兼番組の登場人物である夫婦と、その夫側の元愛人の間に起こった事件に巻き込まれる中で、銀行やマフィアやアル中の探偵や図式的な考え方を好む殺し屋などのあまり好ましくない人々の争いに巻き込まれたあげく、延々とウォータースライドを登る羽目に陥る話。


小説のジャケ買いというわけではないが、たいていの場合僕の好みに合う小説は、表紙のデザインも結構好きだったりする(逆は必ずしも真成らず)。この、ニールの物語は現在4作まで翻訳されているが、最初手に取った理由は表紙を朝倉めぐみさんが描いているからで、この人が表紙を描いている本で面白くないものは少ない気がする。例えば創元推理文庫だとS. J. ローザンの「ピアノソナタ」等の一連のシリーズや倉知淳氏の作品とか。若竹七海氏もそうだなあ。ということで、この小説も面白かった。


ウィンズロウのこのシリーズは、とても面白いのだけれどあまりに展開と結末が暗いのでちょっと手を出すのをやめていたのだが、今回は解説にもあるように作風がかなりコメディ風に転換し、大騒ぎに始まり大騒ぎに終わる。でも、相変わらずちょっと心が冷たくなるようなブラックな記述や挿話も織り込まれているのだが。あと、やはり翻訳が秀逸だなあ。下手な日本人作家の日本語より遙かにことばに味がある。見事に原書のビート感が感じられて、とても気持ちがよい。