田代裕彦「平井骸惚此中ニ有リ 其五」

大正12年、江戸川乱歩をおそらくモデルとする探偵小説家の家に寄宿する学生を主人公としたシリーズの最終巻。2つのパーティーでそれぞれ殺人事件がおこり、探偵小説家と学生がそれぞれの事件を整理する。


出版元と文庫の位置づけから想像するに、これは典型的な「ラノベ」と呼ばれるジャンルにカテゴライズされると思うのだが、いつも感じるようにこの作者はおそらく「ラノベ」と呼ばれる、何となくは想像が付くのだけれどよくわからないジャンルには、そもそも興味を感じていないのではないか。物語中で起こる殺人事件は異常にしてしかもグロテスクであり、その動機もなかなかなまなましい。妙なキャラクターの設定と、表紙や挿絵の極めて牧歌的というか、オタクっぽい絵柄がなければ、これは充分創元推理文庫で出版されていた方がよほど雰囲気が合いそうである。文章はとても上手いし、多少の擬古文調というか、そこまでいかなくても講談調の語り口は素晴らしい。もっと好き勝手に、陰惨な探偵小説を書いてほしいものです。