新城カズマ「サマー/タイム/トラベラー 2」

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

「1」の続編にして完結編。前巻でほのめかされていた色々なことが起こり、事態は横滑りをしながら世界を亀裂させ、物語はゆるゆると終わる。

馬鹿みたいに毎日本を読んでいると、さすがに一年に4,5冊は心から出会えて良かったと思える本があり、なんとなく生きているのも悪くはないなあと実感させられるが、久しぶりにそんな気分になった。物語としては、早熟で天才な3人の少年少女が、一人の時間を乗り越えることが出来る少女を研究する内に、その少女を中心軸としてぐるぐるとまわりながらいろんなところにぶつかったりえぐったりする。そのうちに前巻では全然わからなかった一人一人の隠れた特性が明らかになるとともに、その特性によって主人公たちの世界、つまり「夏休み」が、それ自身に向かって崩壊してゆく。ありふれたいいかただが、これは何かを失う話であり、それによって上を見る視線がむしろ水平的な、または俯瞰的な視線に変化してゆく話である。それはあんまり気持ちの良いものでもなく、むしろ敗北の物語だったり、失敗の物語であったり、なによりも取り返しの付かない経験を心に刻みつけるお話になってしまうのだが、それがなんとも心地よい。なぜならそれは決して虚しい出来事ではなく、ある種の希望に満ちた物語と感じられるからだ。全然内容の説明にはなっていないのだが、この小説は久々に当たり。本読んでてよかった。