新城カズマ「サマー/タイム/トラベラー 1」

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

時間旅行をすることが出来るらしい高校一年生の女性と、彼女を取り巻く人々の色々が、彼女の幼なじみの男性の一人称で語られる。

なんだかいろんな事が起こるのらしいのだが、主たるイベントはおそらくこの巻では発生しないらしく、思わせぶりに語られる口調の中でそれでもいろいろな出来事が懐古調に物語られてゆく。今後どういう展開になるのか全くわからないし、そもそもどのような物語なのかも今のところよくわからないのだが、それでも面白かったのはこの作家の文章にとても力があるからに違いない。この巻の全編にわたり時間旅行にまつわる小説を中心としたペダンティックな単語が列記され、またそれ以外にも高校生とはとても思えない早熟で老成した叙述が随所に見られるのだが、それが空虚な中身のない言葉の羅列ではなく、何か密実な言葉の固まりとして聞こえてくるのは、おそらく作家が自分の書いていることをすべからくコントロールできるくらいに博識であると同時に、おそらくペダンティックな内容自体をとても好きだからであろう。このさきどのように物語が進展してゆくのかはわからないが、これだけ読ませる力を持っている人ならば、予想を裏切るくらいに破綻と脱構築された物語が待っているに違いない。第二巻は本屋に並んでいたが、今日は腰痛でまったく外出が出来ず、買いに行けなくて残念だった。