デニス・レヘイン「スコッチに涙を託して」

スコッチに涙を託して (角川文庫)

スコッチに涙を託して (角川文庫)

ボストンで私立探偵を営む男性が、上院議員のスキャンダルの証拠品の後始末に巻き込まれる内に、騒ぎは拡大しギャングの抗争事件に発展し、ボストンの街中で嘘みたいに人が殺される話。

これがいわゆる典型的な「ハードボイルド」というものか。知人に勧められて読んだのだが、なんだかもう、おかしくてたまらない。物語自体は良くできていて、それなりに盛り上がりも無理もあり、ずいぶん才能のある作家だなあと思いながら読めたのだが、やはりジャンルとしての「ハードボイルド」というものはなかなか面白い。おそらくこのジャンルとしての要請だと思うのだが、刑事は象のように酒をのみ、アフガニスタンの傭兵かと思われるような凶暴なアフリカ系アメリカ人は主人公とその相棒の女性にだけは優しく、ところどころで不必要な発砲・殺人事件が多発し、まるでボストンは都市ゲリラ戦を戦うバクダットのようである。でも、これ舞台は精々1980年代だよねえ。人種対立が先鋭化したのはもう少し前の話だし、その時点だってボストンで戦闘行為は起こってないよ。「ハードボイルド」という設定を成立させるための舞台作りが極めて強引なため、ほとんどSF的といっても良いくらいの世界が展開されていると言うところが、馬鹿馬鹿しくて良い。主人公たちがやたら酒を飲みまくるのは、これはあれですね。いわゆるSFで主人公たちがレーザービームをうちまくるようなものと同じレベルのギミックだなあ。読んでていいかげん気持ち悪くなる。たばこの吸いすぎもやめてほしい。