吉川良太郎「ボーイソプラノ」

ボーイソプラノ

ボーイソプラノ

というわけで「全仕事」の続編。前作にも登場した隻眼の探偵(元警官)が、生物兵器の密輸に関わる事件に巻き込まれる中で、狂った神父や殺し屋の少年や子だくさんの悪徳刑事ややる気のない猫人間に遭遇する。

こちらは前作よりも「ハードボイルド」調なのだが、しかしやはりこの作者は「ハードボイルド」というジャンルの滑稽さが好きで好きでたまらないみたいで、クトゥルー神話と都市の狂気をモチーフに一筋縄ではいかない世界を作り上げる。作中で、主人公が他の登場人物から、「ハードボイルド」がいかに幼稚で自己満足の世界かということを滔々と述べられながらも、それでも「ハードボイルド」な世界を淡々と描き続けるこの作者は、なんというか人が悪い。物語自体は基本的に一本道で妙な落とし穴もなく、淡々と始まり終わるのだが、その無理のなさはかえって物語自体をシンプルで非常に洗練したものにしていると思う。そういえば前作のサイバーパンク的な雰囲気は全く感じられなかったが、気にはならなかったなあ。サイバーパンクは、ある意味山田風太郎の忍術ものと一緒で飽きるからね。前作であれほど大活躍した猫が全く仕事をしないのも潔くて良い。