吉川良太郎「ペロー・ザ・キャット全仕事」

ペロー・ザ・キャット全仕事

ペロー・ザ・キャット全仕事

近未来、世界が極度にデカダンな雰囲気に包まれ堕落と退廃に苦しむ中で、フランスだけはギャングの「フラノ一家」によってその平安が保たれているのだが、あるオタク少年が自分の精神を猫と同期させるシステムをひょんなことから手に入れてしまい、猫の体に乗り移ってやりたい放題楽しむうちに、ギャングと街の罠にはまってゆく話。

結構前の小説だが、未だに新しい。文章は、作者がフランス文学を専攻していただけに多少フランス風のペダントリーが感じられるが、本質的には明るく楽しい冒険小説。ハードボイルド風の舞台で、登場人物もハードボイルドっぽい人たちがほとんどなんだけれども、主人公のあくまでオタク少年、モラトリアム人生を貫こうとするとする姿が物語を結構生き生きさせている。この作者はものすごく小説がすきなんだろうなあ。おそらくかなりの読書量だし、ずいぶん研究しながら書いている気もするのだけれど、小説としてのおもしろさの追求にその一番の情熱が注がれている感じがして、とても爽快。タイトルもいいなあ。いきなり「全仕事」だもんね。また全編猫っぽさが漂い、猫好きの僕としてはとても楽しかった。