西澤保彦「方舟は冬の国へ」

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)

今週の後半は副業の仕事でなぜか出張をさせられてしまい、二泊三日で愛媛に行っていたため更新が滞っていたわけですが、その帰りに松山空港のおみやげ物売り場で読むものがなかったため買った本。失業中の男が1ヶ月間とある別荘で、監視カメラと盗聴器で監視されながら全く見知らぬ人と家族のまねごとをして暮らすことになるなかで、不思議な出来事が次々と起こり、最終的にはその状況を解き明かしてゆく話。

この人は基本的にはとっても文章は上手く、人物の作り込みも無理がない上にお話も見事。しかし、なぜ面白くないのだろう。端的に言えば、手を抜いているとしか思えない。初期の西澤の作品には、なんというか追いつめられた痛々しさというか、無理矢理絞り出された知性のきらめきのようなものがあったのだが、ぐっと人気作家になってからは、なんとも軽くなってしまった。「夏の夜会」あたりからは失望することしきりだったのでもう買うのはやめようと思っていたが、やはりこの作品も残念な出来。でも、ほんの少しのところだと思うんだよな。昔の高校の教師の正確や言動があまりにも漫画的であったり、主人公があっさり相手の女に惚れられてしまったり、そういう結構小さなところの作り込みのいい加減さが全体を台無しにしている気がする。古本屋の主人が「最近西澤さんの本は売れないんだよね〜」といってあんまり良い値付けをしてくれなかったのを思い出した。がんばれ、西澤先生!