石田衣良「ブルータワー」

ブルータワー

ブルータワー

癌を患う男性が、激痛に襲われるたびに二百年後の世界の人間の心の中に精神が移動する。その二百年後の世界はインフルエンザの亜種によって破滅の危機にあり、人類の選別と階層差が激化している。この男性が現代とその二百年後の世界を行き交う内に、二百年後の世界を救う行いに巻き込まれてゆく話。

予定調和的な男の子用ヒーロー物語。主人公にはある種のスーパーマン的な属性が割り振られ、危機に陥ると誰かが身を挺して助けてくれる。だって二百年後の伝承の唄に世界を救うとうたわれているのだから、まあ世界を救うんでしょう。現在と二百年後の人物との名前に整合が見られたり、WTCを模した構造体で作られた塔に選別された人間が住んでいたりと、寓話性と神話性を持たせようとしているのだと思うが、いまいちわからない。結局あまり物語に深みがなく、主人公も結局病気は治るは新しい女ができるわで、あまりの予定調和にうっかりほのぼのとまでしてしまう。なんとなく、ドラえもんの夏休み大長編ものの雰囲気が感じられる。野又穫画伯の挿画はいつ見ても素晴らしいが、装丁が台無しにしている。